くも膜下出血くもまくかしゅっけつ
最終編集日:2026/1/27
概要
脳と脊髄は外側から硬膜・くも膜・軟膜という3層の膜に覆われています。くも膜下出血は、くも膜と軟膜の間にある「くも膜下腔」に出血が起こる病気です。もっとも多い原因は脳動脈瘤の破裂によるもので、年間1万人に1~2人が発症します。女性は男性の1.5倍の発症率で、50~60歳代に好発します。
緊急を要し、死亡率は25~50%とされ、治癒しても社会復帰できるのは3人に1人で、さらに3人に1人は後遺症が残るといわれています。また、再破裂を起こすことも多く、再破裂例での治癒率はさらに低下します。
原因
くも膜下腔は脳脊髄液に満たされ、脳動脈や脳静脈が走行しています。脳動脈に脳動脈瘤(動脈壁の一部がふくらんだもの)ができ、それが破裂することで出血が生じます。なぜ脳動脈瘤ができるのかは、まだ十分に解明されていませんが、先天的要因や動脈硬化、高血圧症などの関与が指摘されています。くも膜下出血の約85%は脳動脈瘤の破裂が原因と考えられていますが、そのほか、脳血管の奇形(脳動静脈奇形など)や外傷などが原因となる場合もあります。

症状
突然、それまでに経験したことのないような強烈な頭痛が起こります。「○時○分に起きた」「〇〇をしようとしたとき痛くなった」とはっきり言えるほど、発症は突然です。吐き気や嘔吐を伴い、発症時に一時的に意識を失う場合や、けいれんを伴うこともあります。一部の人は病院に到達する前に亡くなる場合があります。
発症前に、前駆症状として軽い頭痛がしたり、一時的に強い頭痛が繰り返されたりすることもありますが、見逃されてしまうことが多々あります。また、まぶたが下がる、斜視になるなどの動眼神経麻痺が現れることもあります。
検査・診断
頭痛の起こり方や性状からくも膜下出血が疑われたら、頭部CT、MRアンギオグラフィ(MRA)で診断を行います。造影剤を用いる3D-CTアンギオグラフィ(3D-CTA)もしばしば行われ、さらに詳しく調べたり、血管内治療の可能性を検討した場合には、脳血管造影検査が行われます。
緊張性頭痛、片頭痛、硬膜下血腫、椎骨動脈解離性動脈瘤などとの鑑別診断も重要です。
治療
くも膜下出血は、初回の出血が治まっていても再出血のリスクが非常に高い疾患です。初回出血から24時間後、さらに1~2週間後に再出血のピークがあるとされ、再出血が起こると、死亡率および後遺症のリスクも高くなります。
くも膜下出血の治療は、再発前に動脈瘤を処理し、出血を防ぐ治療といっても過言ではありません。そのため、状態が許す限り早急に再出血を予防する処置が必要です。
治療は大きく3つの段階に分けられます。
① 降圧、鎮静、鎮痛治療を行い、頭蓋内圧を下げて状態を安定させ、再出血を防ぎます。
② 動脈瘤の場所、大きさ、形、破裂の有無、全身状態、合併症、年齢、治療体制などを考慮し、破裂脳動脈瘤に対する根治的治療として、「開頭クリッピング術」、あるいは「血管内治療」のいずれかが選択されます。
根治的治療はできるだけ早く、可能であれば発症から24時間以内に行うことが望ましいとされています。
●開頭クリッピング術
全身麻酔下で開頭し、頭蓋骨に窓をつくり、そこから入って出血を起こしている動脈瘤の根元を露出させ、クリップ(主にチタン製)で挟み、血流を遮断します。動脈瘤の場所、大きさ、形にあわせてクリップが選ばれます。身体への負担は大きいですが、根治率の高い方法です。脳の深部に脳動脈瘤があるとアプローチが難しく、形によっては困難な場合があります。
●血管内治療
太ももの付け根の動脈からカテーテルという細い管を挿入し、血管を通して脳動脈瘤に到達させ、瘤の中にプラチナ製のコイルを詰めて血流を遮断したり(コイル塞栓術)、動脈瘤の入り口を中心に筒状のステントを留置させたり(ステント留置術)、それらを組み合わせます。さらに目が細かいステントを置くフローダイバーター留置術などが行われることもあり、血管内治療は次々に新しい方法が行われるようになってきています。
血管内手術は身体的負担が少なく、脳の深い部分でも到達が可能です。しかし部位や形状により困難な場合があり、動脈瘤の閉塞が不十分だったり、再破裂や瘤の増大を招いたりするなどの危険性は残り、開頭クリッピング術より根治性は低いとされています。
両者にはそれぞれ長所と短所があり、さまざまな条件を考慮して治療法を検討します。
③ くも膜下出血発症後、4日~2週間の間に、約30%に遅延性の脳血管れん縮(脳の血管が収縮して細くなる)が起こり、脳梗塞のリスクが高まります。予防のため、腰椎ドレナージで血液を除去したり、薬物療法を行ったりします。また、くも膜下出血後髄液循環の障害で髄液がたまり、水頭症を生じやすいため、兆候がみられたら速やかに治療を行います。
セルフケア
予防
くも膜下出血のリスク因子には、喫煙、高血圧、過度の飲酒が挙げられます。特にお酒の飲みすぎはリスクのない人の4.7倍の発症リスクがあるといわれています。禁煙に努め、塩分は1日6g未満、アルコールは以下を目安にしましょう。
・ビール:中瓶1本
・日本酒・ワイン:180mL
・焼酎:0.8合
・ウイスキー:ダブル1杯
また、入浴や排便時は血圧の変動が起こりやすく、急な温度変化や便秘時のいきみなどを避けるよう、注意が必要です。
親族にくも膜下出血の人がいる場合は、動脈瘤の頻度が高まることがあるため、脳ドックを受けるのもよいでしょう。脳ドックなどで未破裂脳動脈瘤の存在を指摘された場合は、専門医の指導のもと経過観察を続け、出血や破裂のリスクが高まった場合は適切な治療を受けることを検討しましょう。
監修
昭和医科大学医学部脳神経外科 名誉教授
藤本 司