1型糖尿病のインスリン治療について
最終編集日:2025/11/10
糖尿病には1型と2型があり、肥満、運動不足、ストレスなどをきっかけに発症するのが「2型糖尿病」です。一方、年齢、肥満、運動不足などとは関係なく発症することが多いのが「1型糖尿病」で、おもに子どもなど若年世代で発症します。1型糖尿病は、毎日のインスリン治療が必要ですので、家族や周囲の人々が病気をよく理解し、サポートすることが重要です。
●膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンが分泌されなくなる
1型糖尿病は、病原体や異物から体を守ってくれる免疫細胞(リンパ球)が、誤って自分の膵臓のβ細胞を攻撃してしまうことで起こります。β細胞が破壊されると、糖の代謝に不可欠なインスリンの分泌が著しく低下する、またはほぼ完全に失われてしまうからです。なぜ、リンパ球が膵臓のβ細胞を攻撃するのかは、完全に解明されていませんが、過去のウイルス感染がリンパ球の暴走になんらかの関与をしていると考えられています。とはいえ、この病気は、人に感染したり、遺伝したりするものではありません。
子どものときに発症することが多く、特に思春期に診断されることが多いですが、大人になってから発症するケースもあります。
<体が糖を利用するために欠かせないインスリン>
インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンの一種です。食事をして血液中の糖濃度(血糖値)が上昇すると分泌され、糖が速やかに体中の細胞にとり込まれてエネルギー源となるように働きかけます。そして、糖が細胞内に取り込まれると血糖値は下がります。しかし、インスリンが十分に分泌されないと、血糖値が高い状態が続き、血管の壁が傷ついて動脈硬化が促進されるなど、将来のさまざまな合併症を引き起こすこととなります。
●インスリンを補充する「インスリン治療」
1型糖尿病を発症するとインスリンがほとんど分泌されなくなってしまうので、インスリン療法が不可欠です。
治療法には、1日に数回ペン型の注入器で注射をする「頻回注射法」や、皮下に留置した細いチューブからインスリンを持続的に注入する小型のポンプを用いる「インスリンポンプ療法」などがあります。
適切なインスリン治療のためには、今の血糖値を知ることが重要です。これまで、指先に針を刺して少量の血液を出して測る「自己血糖測定」が主流でした。しかし最近では、おなかや腕などにセンサーを貼り付け、皮下のグルコース値を自動で測定し続ける「持続血糖測定器(CGM)」が登場し、指を刺す辛い思いをすることが減りました。
インスリン治療を生涯にわたって厳密に続けて血糖値を適切に管理することで、健康な人とほぼ同様の日常生活を送ることができます。しかし、治療を中断したり、決められた通りに行わなかったりすると、眼や腎臓、神経などに合併症が起こることがあり、日々の療養が必要です。
●子どもの血糖値は変動が大きく、周囲のサポートが力に
1型糖尿病と共に生きることは、患者自身と家族にとって、時に大きな負担となることがあります。特に成長期の子どもの場合、血糖値は食事だけでなく、体育の授業や友達との外遊びといった「運動」によっても大きく変動するため、血糖管理は非常に難しいものです。
また、思春期の子どもの中には、注射や血糖測定を「人に見られたくない」と感じ、治療していることを隠したいと思ってしまう子どももいます。病気のことをオープンに話すことで、周囲の理解やいざというときの助けを得やすくなるのは事実ですが、本人のさまざまな思いを尊重し、安心して治療を続けられる環境を一緒につくっていくことが何よりも重要です。家族や周囲の人々は、こうした状況を理解し、温かく見守る姿勢が大きな支えとなります。
<「低血糖」が起きたときの対処法>
インスリン治療中は、血糖値が下がりすぎて「低血糖」になることがあります。おもな症状は、冷や汗、動悸、手の震えなどです。このような症状が出たときは、ブドウ糖や糖分を含むジュースなど、吸収の速い糖分をとる必要があります。対処をすることで、多くの場合、15~20分ほどで症状は改善します。もし意識が朦朧として自分で飲食できないような重い低血糖が起きた場合に備え、家族などが使えるグルカゴンの点鼻薬も最近では使われています。 いざというときにすぐ対処できるよう、家族やまわりの人々も低血糖の症状と対処法を知っておくことが大切です。
監修
あべのメディカルクリニック 院長
川村 智行